法の守らせ方・守り方

T.はじめに

コンプライアンスのひとつに環境問題をあげる企業は少なくないが、個人のレベルでも環境問題に関心をもち環境に配慮をすることが、社会の構成員として求められつつある。その1つのあらわれが、エコバッグであり、ちょっとしたブームにもなっている。エコバックの持参がルール化・強制されているわけではないが、スーパーマーケット等にバッグを持参するという流れが、自然にできているように感じられる。  実際、私もエコバックをいつも持ち歩いている……と言いたいところであるが、そうではない。その代わりというわけではないが、携帯マグ(水筒)はほぼ毎日所持している。ペットボトルの消費量がぐんと減り、環境に貢献しているような気持ちになっている。社会の規範や法を守らせる・守るときに、その方法が1つである場合もあれば、このケースのようにいくつかの方法がある場合もある。このような例は法律でもみられる。

U.考察 〜 セクシュアルハラスメント防止措置を例として

男女雇用機会均等法(*1)は、いわゆるセクシュアルハラスメントに関し、事業主に、雇用管理上必要な措置を講じることを義務づける(11条)。事業主が講じるべき必要な措置の内容は、指針(*2)によって明らかにされているが、その内容は、@職場におけるセクシュアルハラスメントの内容および職場におけるセクシュアルハラスメントがあってはならない旨の方針を明確化し、労働者に周知・啓発すること、A行為者については厳正に対処する旨の方針および対処の内容を就業規則等に規定し、労働者に周知・啓発すること、B相談への対応のための窓口をあらかじめ定めることなど、9項目に及ぶ。企業の規模や職場の状況のいかんを問わず、この9項目については、措置を講じることが事業主に義務づけられている。

そしてこの9項目には具体例が示されている。たとえば上記Bであれば、1)相談に対応する担当者をあらかじめ定めること、2)相談に対応するための制度を設けること、3)外部の機関に相談への対応を委託することが、例として示されている。このことからわかるように、企業内に「セクシュアルハラスメント相談窓口」という名称の窓口を必ず設けなければいけない、ということをBは求めていない。相談担当者を定めるとか、相談制度を設けるとか、要は相談体制がきちんと整備されていればよいのである。従業員が少ないところや従業員の性別構成が極端に偏っている企業では、企業内に相談体制を設けるよりは外部の機関に委託した方が、従業員も相談に行きやすいかもしれない。

事業主は、1)〜3)の例に縛られることなく、企業の規模や従業員の属性、業務の内容なども考えながら、その企業の実情に即した、かつ実効的な対応をとればよいことになる。指針は、セクシュアルハラスメント防止措置として何が必要であるかを明確にしたうえで、単なる形式ではなく実質的な措置を求めるものともいえる。

III.結論

法が、画一的な基準を定め、それを守るように求めたとしても、すべての企業・人がそれを守るとはかぎらない。また、強制的に守らせたとしても、単に形式を整えているというのでは、あまり意味がない。法の守り方について、詳細に定めなくても、また画一的な基準を求めなくても法の目的が達成されるのであれば、その方法は各企業・各人に委ねる方が望ましい。

ところが、措置を講じていることをアピールするために、あるいは措置の不備を指摘される可能性を少なくするために、指針の例をそのまま実行することが大いに考えられる。もちろんそれは1つの方法である。しかし、それでは単に形式を整えただけの可能性もある。形式が整っていても実際にそれが機能しなければ、措置としては適切でない。

また、必要以上の措置を講じることも適切とはいえない。これについては、ハラスメント対策は別である、ハラスメント対策に無駄な措置(投資)などない、といった意見もあるだろうが、企業におけるニーズや実情にあわせて措置を講じるのが望ましいと、私は考える。従業員が少ないところでは、ハラスメント対策業務に専従させる従業員を置くことは難しく、人事担当者や女性従業員が本来の業務に加えてハラスメント対策業務に従事していることもあろう。そのようなケースで、たとえば相談体制を充実・強化するあまり本来業務に支障を来たすようなことになってしまっては、それは適切な方法とはいえないだろう。必要な措置は講じなくてはならないが、過剰な措置を講じる必要はないのである。

上で述べたことは、前回のコラムで松中氏が述べたことに通ずる。コンプライアンスであっても、法律上の義務であっても、画一的・形式的な遵守ではなく、その目的に照らした守り方、というものがあるように思われる。セクシュアルハラスメント防止措置に関する規定は単なる形式ではなく実質的な措置を求めるもので、法の守り方に複数の方法があることを示している。どのようにして法を守る(措置を講じる)のが最良の方法であるかは、じっくり検討されてよいであろう。

(*1)雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律
(*2)事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置についての指針

[ 水島 郁子 ]