東アジア地域連携フォーラム2008年大阪大会シンポジウム概要
2008年2月23日(土)9時から18時まで、JICA大阪国際会議室にて、東アジア地域連携フォーラム(Forum on East Asian Linkage=FEAL)2008年大阪大会シンポジウムが開催されました。FEALとは、人と人、地域と地域を信用と信頼で結ぶ日本、韓国、中国の研究者、教育者および実務家からなる学会です。FEAL大会は、3ヶ国それぞれの回り持ちで年に1回実施され、すでに4回目を迎えております。日韓中の法学研究者、実務家、学生が数十名参加して、たいへん盛会でした。ちなみに、私は第2セッションのコーディネーターとして参加させて頂きました。
シンポジウムは3つのセッションに分けて行われました。午前に第1主題「立法・政治過程における法律家の役割」、午後に第2主題「ADRと交渉における法律家の役割」、および第3主題「社内弁護士の役割」が行われました。いずれのセッションも、日韓中の著名な研究者、実務家(名前は明らかにできませんが、大きな法改正の中心で活躍した経歴をもつ弁護士や、著名なADR実務家、渉外弁護士、多国籍企業の法務担当取締役など)によって構成され、充実したディスカッションとなりました。
第1主題では、いずれの国の立法手続においても、利害関係を有する国民の要求と理論的整合性の調和を図ることが重要な課題であり、法律家は法案策定のプロセスのなかで様々な利益団体がねじ込んでくる要求と既存の法理論を整合化させる重要な役割を担っていることが明らかになりました。立法過程に関わる法律家には、法的専門性のみならず、高度のコミュニケーション能力と調整能力が求められるます。彼らに求められる能力は、一般に法律家に求められる能力とはかなり異なっているということが言えそうです。
第2主題では、日韓中のいずれにおいてもADR(ここでは主としてミディエーションを念頭に置いています)は注目されているけれども、なお十分な社会的認知があるとは言えず、ADRを専門とする法律家が安定した収入を得て活躍する状況にはなっていないこと、ADRの実践においては法的素養よりもコミュニケーション能力が重視されること、ADR手続主宰者の養成のためには人文科学を含む幅広い教養が必要であり、人格的に信頼される力量を備えた人物を育てなければならないことなどが確認されました。
第3主題では、いずれの国でも、契約業務、コンプライアンス、法令調査、内部統制、外部の弁護士との連携のコーディネートなど社内弁護士の業務は多様になってきているけれども、とりわけ経営判断を後押しする「攻めの法務」が重要になってきているということが確認されました。従来の社内弁護士のイメージは「あれはダメ、これはダメ」というストップ役のイメージだったと思います(いまなおこのイメージは強いのですが)。しかし、今日の社内弁護士に求められる役割は、法的問題を精査したうえで「ここまでならいける」という判断を示す、ポジティブな経営判断のアシスト役になってきているというのです。さらに、社内弁護士の業務として、法的判断よりもファクトファインディングがより重要であることも明らかにされました。不祥事の調査などでは、何が真実かを確定しないと、再発防止といった対応ができません。したがって、事実の的確な確定のためのスキルは社内弁護士にとって極めて重要と言えるでしょう。
3つのセッションを通じて、今日の法律家に求められる能力は法的専門性に限られず、むしろコミュニケーション能力や調整能力、そして事実を的確に把握する能力が重要になってきていること、法律も「あれはダメ、これはダメ」ということを判断する基準としてではなく、そこから可能なことを引き出し、前向きな判断を促すための素材として理解されるべきであるといったことが明らかになりました。
次回FEAL2009年大会は韓国(ソウル市)で行われます。次回は法曹教育が課題となるそうですが、今回の成果がさらに発展する形で議論が展開されるのではないかと期待しています。
[福井康太]