2007年4月21日(土)法理学研究会例会概要
2007年4月21日(土)、同志社大学光塩館第2共同研究室にて、法理学研究会4月例会が開催されました。研究会の第1報告は豊田工業大学の浅野幸治氏、第2報告は私でした。浅野氏は哲学の研究者で、ジョン・ロックの財産権についての研究を進めておられます。報告タイトルは「ジョン・ロックの遺産相続論」。氏は、リバータリアンに近い立場から、ロックの遺産相続論は果たして理論的に成り立つのか検討する内容の報告をされました。詳細は省略しますが、「自己所有」の理論から相続権を導き出すロック相続論の理論的問題点について理解することができました。
私の報告は「法曹の新しい職域と法的思考」でした。法曹の職域は近年急速に拡大し、法曹に期待される役割も多様化しています。予防法務やリスク・マネジメント、政治的ロビー活動や制度設計といった、これまで法的思考論が射程に含めていなかった業務の広がりを前にして、法的思考は変わるべきなのか、変わるべきだとしてどこまで変わってよいのか、守られるべき核心は何かについて議論させて頂きました。私のスタンスとしては、法曹にはリスク・マネジメント型の将来志向の思考法がますます求められるようになってきているが、そういう思考法を法的思考に組み込むという方向ではなく、むしろ普遍的ルール志向の法的思考は(かなり緩やかになるとはいえ)基本的に維持しつつ、あわせてリスク・マネジメントを含む新しい思考法を柔軟に使い分けられる、複合的思考を法曹は身につけなければならないという方向で議論しました。明確で予見可能なルールを宣言するという司法の機能は損なわれてはならないと考えるからです。ディスカッションでは、田中成明教授のいう「普遍型法」が損なわれるような方向での法的思考のなし崩し的拡大を危惧する意見がいくつも出されましたが、私自身はあくまで普遍型法を志向する従来的な「法的思考」の核心を損なわない範囲で、新しい思考法になじむ法曹を増やすことを提言しようとしていたので、概ね共通了解が確認できたと思っております。
法曹の職域拡大と法的思考、法曹のあり方との関係に関する議論は、きちんとした整理が必要だと思っています。機会を改めてさらに議論を深めていきたいところです。
[福井康太]