東アジア地域連携フォーラム2009年ソウル大会概要

2009年3月21日(土)、22日(日)の2日間、韓国ソウル市・建国大学法学専門大学院国際会議室にて、東アジア地域連携フォーラム(Forum on East Asian Linkage=FEAL)2009年ソウル大会が開催されました。FEALとは、人と人、地域と地域を信用と信頼で結ぶことでよりよい未来に繋げていくための研究者、教育者および実務家からなる学会で、韓国の建国大学、中国の復旦大学、日本の大阪大学が中心となって運営しています。FEAL大会は、3大学それぞれの回り持ちで年に1回実施され、今年で5回目となります。今年の大会の統一テーマは「アジアの未来のための法曹教育」で、未来に責任をもつ創造的で能力の高い法曹をいかにして養成していくかについて、様々な角度から議論することになりました。今回もまた、韓中日の法学研究者、実務家、学生が数十名参加して盛会でした。私は、今回はフロアの参加者の一人としての参加させていただきました。

第1日目(21日)は9時から18時まで大会シンポジウムが行われ、第1主題「法曹の社会的責任と教育」、第2主題「創造的法律家の養成」、第3主題「法律技術と法曹教育」の3つの主題について、基調報告とパネルディスカッションが行われました。

第1主題「法曹の社会的責任と教育」(司会:建国大学法学専門大学院 Lee Sang Tae教授)では、復旦大学法学院副院長の張光傑教授が「グローバル社会に適合した法曹教育とは」という基調報告を行われ、中国の法学院がどのようにグローバル化に対応しようとしているか、他方、法曹養成のグローバル化対応によって中国国内にどのような問題が生じているかといった点について紹介されました。中国の法学院は法曹養成のグローバル化に非常に力をいれているようですが、同時にまた、司法アクセスの地域格差など看過できない問題に対処するために、グローバル化に偏らない法曹養成が求められているようです。この基調報告を受けて、建国大学法学専門大学院の洪完植教授が韓国の法科大学院(法学専門大学院)がどのようにグローバル化に対応しようとしているかについて紹介され、また、大阪大学大学院法学研究科の三成賢次教授が、比較法史的な視点から、アジアにおける法継受の伝統が今日のグローバル化にとって有する意味の大きさを指摘し、あまた、国内法が充実してきているがゆえの自国主義の台頭も重大な問題をはらんでいると問題提起をされました。フロアとのやり取りでは、各国のグローバル法曹教育の内容や、三成教授が提起した比較法史的視点についての質疑が行われました。

シンポジウムの模様

第2主題「創造的法律家の養成」(司会:成均館大学法学専門大学院 孫京漢教授)では、建国大学法学専門大学院の李在承教授が「創意的法律家の育成」という基調報告を行われ、法哲学の視点から、様々な論者を紹介しながら、法学における「創造的誤読」を含む創造的方法の可能性について問題提起をされました。李報告は広範囲に及ぶものでしたが、その趣旨は、法学においては、芸術の場合のような「純粋な」創造性ではなく、これまで積み上げられてきた長い法的伝統を前提にした創造性が求められるのであり、そのような創造性を養うために、法曹養成教育では多様なカリキュラムを設け、問題解決を自ら試みさせ、また何のために生きるのかを絶えず考えさせ、持続的に視点を変化させていくような教育を行うことが求められる、ということなのだと思います。この基調報告について、復旦大学法学院の姚栄涛教授と大阪大学大学院国際公共政策研究科長の床谷文雄教授がコメントされ、法学における創造性とはどのようなことか、法学における「創造的誤読」の可能性、創造的な法曹養成教育のカリキュラムのあり方などについて問題提起をされました。フロアとのやり取りでは、創造的法律家の養成という際の「法律家」の概念、そこにいう「創造性」の意味、法曹に期待される役割、そして創造的法曹教育のための方法などについて、活発な議論が行われました。もっとも、「創造性」の意味については、法解釈、法の政策的法運用、立法といった従来的な法曹役割を前提とした創造性に議論が集中していたので、私は、今日の最先端の法曹の業務は企業における法的リスク管理やコンプライアンス業務であり、今の時代の法曹の役割期待にあった創造性の議論をする必要があるのではないかというコメントをフロアからさせていただきました。

第3主題「法律技術と法曹教育」(司会:建国大学法学専門大学院 Kwon Jong Ho教授)では、大阪大学大学院高等司法研究科長の松川正毅教授(松川教授は諸般の事情で本大会を欠席され、同法学研究科長の中尾敏充教授が原稿を代読されました)が「よき法曹の養成と日本の法科大学院教育」なる基調報告をされ、法科大学院のもとで法曹養成が受験教育に流され、「よき法曹」の養成という理念と現実とがいかに乖離してしまっているか、について問題提起が行われました。もっとも、同報告では、起案指導など法曹が実務に出てから役に立つ教育が大阪大学の法科大学院で行われているということも指摘されており、フロアとのやり取りでは、まずそのような起案指導が実際にどのように役に立つのかについて質疑が行われ、また法科大学院と予備校のダブルスクールの問題など、3カ国に共通した法曹養成の問題が議論されました。大阪大学の法科大学院で行っている起案指導は司法研修所での教育に直結するもので、そこでの講義資料には実務でそのまま使えるほどハイレベルなものも含まれています。このような教育は「よき法曹」を育てる実務教育としてもっと評価されてよいと思っています。

21日のFIEL大会シンポジウムでの議論を通じて、中韓日いずれの国でも法曹養成についてほぼ同様な問題に直面しており、したがって、相互に問題点を比較検討し、ベンチマーク形成を行っていけば、グローバル時代に対応したよりよい法曹養成教育を実現できるという希望を持つことができました。

第2日目(22日)は9時から14時まで、次世代部会「アジアの未来を創る会」ということで、参加学生による英語での基調報告と質疑が行われました。次世代部会では、中韓日の法曹養成教育の特色や臨床教育の試み、法科大学院でのグローバル法曹教育の難しさなどについて、学生の視点から様々な興味深い議論が展開されました。学生の報告ということで詳細は紹介できませんが、全体的な傾向として、中国の学生はグローバルな法曹教育や実務志向教育に明るい展望を見いだしているように見える一方、韓国や日本の学生は受験志向の法科大学院教育のなかで、グローバルな法曹養成や臨床教育がなかなか進まないことに問題を感じているような報告が多かったように思います。学生たちが将来に夢を抱くことができるような法曹養成教育を実現できるよう、教員側は様々な工夫と努力をするように求められていると感じました。

FIELの来年の大会は中国・上海の復旦大学で行われます。来年の大会にも是非とも参加し、議論と交流の輪を広げていきたいと思っております。このような素晴らしい大会を準備し、開催して下さった、建国大学関係の先生方、とくに同大学法学専門大学院長の崔允姫先生、そしてFEAL韓国代表の孫京漢先生に心から感謝いたします。

会場ロビーにて

[福井康太]