韓国における法曹の新しい職域について

2006年2月2日(木)15時から、本学法経総合研究棟4F大会議室にて、嶺南大学校・法科大学 法学部の朴洪圭教授の講演会(大阪大学法学会主催)が開催されました。朴先生は韓国労働法がご専門です。先生は、1983年から85年まで大阪市立大学に留学した経験があり、日本語でご講演頂くことができました。今回は韓国法曹の職域に関する講演をお願いしておりましたが、テーマをより広く捉えて「韓国の準法律家に関する研究」というタイトルでお話し頂きました。韓国の法曹についての紹介はしばしば見られるのですが、韓国の準法曹についての紹介はほとんどなく、貴重な講演となりました。朴先生は、韓国の公証人(これは法曹職)、法務士(日本の司法書士に相当)、会計士(日本の公認会計士に相当)、税務士(日本の税理士に相当)、弁理士、鑑定評価士(日本の不動産鑑定士に相当)、労務士(日本の社会保険労務士に近いが、社会保険業務は行わず、もっぱら労務文書の作成を行う)、行政書士、会社法務部、行政機関の法務部などについて紹介されました。  朴先生のご講演は内容的に大変幅の広いもので、先生ご自身の経験を交えて、韓国の法曹と準法曹の階級格差がいかに大きいか、刑事訴訟に及ぼされる法曹の権威主義の影響がいかに深刻か、司法試験人気の過熱によって大学の学部教育がいかに荒廃しているか(法学部のみならず、文系学部全体に及んでいる)といったことにまで話題が及びました。最近韓国でも司法試験合格者が年間1000人(9割が弁護士になる)にまで増やされたとはいえ、いまだに法曹が大変に権威をもっており(1998年現在で裁判官1490人、検事が1120人、弁護士が3360人:人口10万人あたり、弁護士7.1人)、こうした問題はなかなか解消されそうにありません。

  私にとって興味深かったことは、韓国はアメリカと違う意味で訴訟社会であるということ、すなわち、些細な問題でも刑事告発、告訴を頻繁に行い、民事事件であっても名誉毀損等刑事事件類似のものが非常に多いというご指摘でした。訴訟についてのアジア的共通傾向などというものは、とてもここには見いだせません。韓国の法務士は法曹に比して社会的地位が低く、独立の事務所で働くよりも、弁護士事務所に所属して業務を行うことが多いということ、また、法曹の都市部集中のために、司法過疎が深刻であるにも拘わらず、法務士に簡裁代理権を付与するといったような議論は韓国では見られないこと、さらに、労務士については訴訟代理権を認めて欲しいという議論もあるが、なお実現していないことなども興味深く伺いました。

朴先生は、日本と韓国との法学界の学術交流に大変な熱意を持っておられます。このような交流の機会を継続することで、大阪大学大学院法学研究科と嶺南大学校・法科大学との学術交流がさらに発展すると確信しています。

♦ 阪大法学56巻1号掲載 : 韓国における準法曹の現状と課題 (PDF)