EUにおける法曹の新しい職域について 〜オランダの場合〜
2006年1月30日(月)14時から、本学法経総合研究棟4F大会議室にて、オランダ・グローニンゲン大学法学部のブローリング教授による講演会(大阪大学法学会主催・EUIJ関西後援)が開催されました。ブローリング先生は行政法、環境法がご専門の方ですが、今回は「EU諸国における法曹の新しい職域:オランダの場合」という題目でご講演頂きました。グローニンゲン大学法学研究所長として、オランダの法曹職域の現状や発展領域、法曹の将来像といったことについてお話し頂きました。司会および通訳は私が担当させて頂きました。
ブローリング先生は、オランダの法曹の職域分布や変動に関する統計に基づいて講演されました。大要はつぎの通り。今日オランダには1,600万人の人口があり、そこには40,000人の法曹(法曹三者だけでなく、公証人、法学研究者、公共部門で働く法実務家を含む)がいる。9大学の法学部に25,000人の法学部生(グローニンゲン大学には3,500人)がおり(全学生数の13%が法学部生)、その40%が法廷弁護士(Barrister)・公証人・裁判官に、24%が公共サービス部門に、3%が法学教育に、6%が銀行・保険業に、そして27%がその他の職に就く(特許弁護士などとして産業界に就職)。学生には法廷弁護士になりたいという希望が多く、また、意外なことに大規模事務所よりも小規模事務所に就職したいと考えている学生が多い(大規模事務所は契約業務や顧問業務が中心で訴訟を担当する機会が少ないことが原因とのこと)。より具体的には、裁判官は現在2,200人で、手続の迅速化・効率化を強く求められるようになり、手続マネージャーとしてより多くの事件を処理することが求められるようになっている。EU法や国際法、そして調停・あっせん等のADRが裁判官の新しい職務になっている。法廷弁護士は12,500人おり、ICJ等国際的司法機関で働く法曹、企業内法廷弁護士(In-house Barrister)、そしてADRが彼らの新しい職域である。公証人は1,250人いるが、営利性と競争を求められるようになり、数の増大は止まっている。さらに、法曹のうちの9,600人が政府、行政庁、公共サービス部門で働いている。ここでは「法的管理」が法曹に期待される新しい職務である、等々。
さらに、ブローリング先生は、オランダの統計に表れた深刻な紛争(18歳以上の者が最近5年間に経験した深刻な紛争)を引き合いに出し、このうち4%しか判決に至らないという事実を挙げ、オランダは決して訴訟大国ではないこと、オランダでもADR等の方法が広く用いられるようになっていること、ADR化の現象は本来潜在的にあった傾向が前面に出ているに過ぎないことなどについて言及され、最後に、人口100,000人につき弁護士15.7人という日本の弁護士数は、アメリカの353.4人、イギリスの140.7人、ドイツの134.1人、オランダの250人と比較してあまりに少なく(2003年統計に基づく)、日本の法曹にとって必要なことは、さらに多くの者が法廷弁護士になることだと強調されました。
ディスカッションでは、法廷弁護士の資格認定の方法や、組織内法廷弁護士がいかなる意味で新しいと言えるのか、オランダが訴訟爆発の状態にあると言えるのか、ADRと訴訟のいずれが望ましいと考えられるのか、そもそもLawyerという用語でどのような職務がカバーされているのか、といったことが議論されました。少ない参加者だったにも拘わらず、充実した議論となりました。
大阪大学はグローニンゲン大学と交流協定を締結しており、今後も同大学との交流は続いていきます。今回のブローリング先生の講演もまた、今後の交流のための布石となるものです。両校の交流がますます発展することを願っております。