西田章弁護士インタビュー概要

2008年3月24日(月)14時から、東京・麹町の西田法律事務所/西田法務研究所にて、西田章弁護士のお話を伺うことができました。西田弁護士は『弁護士の就職と転職』(商事法務・2007年12月)の著者で、弁護士の就職・転職仲介ビジネスの領域に、自ら法曹資格者として進出された、大変にバイタリティーのある弁護士です。西田弁護士は司法試験合格後、最初は倒産法の研究者を目指して東京大学大学院法学政治学研究科に進学されますが、実務を知らない研究者になるのに抵抗を感じ、司法修習を経て長島大野法律事務所に就職されました。同法律事務所在職中に、経済産業省と日本銀行に出向され、官庁や銀行での組織内弁護士の業務にも通じておられます。西田弁護士には、大阪大学「法曹の新しい職域」研究会が実施した「企業における弁護士ニーズに関する調査中間報告書」についてのコメントに加えて、弁護士の就職、昇進、転職に関わる様々な問題についてお話しを伺うことができました。

西田弁護士は、最近の競争激化に伴い、弁護士は10年前と比べて「自分がどのような弁護士になりたいか」についてじっくり考える時間がなくなってきていると言います。就職競争があまりに早い段階にまで前倒しされ、いまや司法試験合格に向けた競争の一環として就職活動が行われる状況になっているからです。背後には大手法律事務所が大規模事案を処理するに当たって、大量の若手弁護士を必要とするようになってきているという事情があります。就職希望者が「偏差値」的な発想で大手法律事務所に入りたがるということもあります。そのような形で就職する結果、就職後に仕事にやりがいを見いだせないケースや、昇進のチャンスが見いだせず不満を募らせるケースが増えてきているというのです。

そもそも、大手法律事務所のアソシエイトは、一般企業法務のようなジェネラリスト的な仕事ではなく、デューデリジェンスのような大規模な法律事務の一部のみ担当する場合が多いと言います。そうでない場合にも、極めて特化された専門分野の業務のみ担当します。そうなってくると、彼らの仕事のあり方は否応なくサラリーマン的となります。また、大手事務所のパートナー弁護士の枠は少なく、内部昇進は非常に困難です。その結果、アソシエイト弁護士間での昇進競争は熾烈なものとなり、弁護士として「個人事件」を経験する余裕どころか、依頼者との接触の機会はほとんどないということになってしまいます。そこでは「弁護士らしい仕事」はしたくても出来ないのです。

そのようなアソシエイト弁護士が事務所を離れることは困難です。「個人事件」を担当することがない以上、アソシエイト弁護士として業務経験を積み重ねても、個人事務所を開業するスキルは身に付かないからです。他方、アソシエイト弁護士の間で大手事務所に入所したエリートという意識は非常に強く、身を落として転職することは彼らにとって大変な苦痛です。西田弁護士の仕事は、そのような若手の転職をソフトランディングさせるための重要な橋渡し役なのだと思います。

そもそも弁護士事務所の経営は今後さらに困難になってくることが予想されます。大規模事務所や専門法律事務所に求められる高度な法務に向けられたニーズと、小規模法律事務所に向けられる安価なサービスに対するニーズとは二極分化し、前者においては質の高いサービスがとくに求められるようになり、そうでなければ仕事がとれなくなってきています。他方、後者においては、弁護士業務は顧客による買いたたきに会い、それを受けて新人弁護士はギリギリまで安価にこき使われるということが予想されます。いずれの事務所に就職するにしても、弁護士に楽観的な未来は保障されてはいません。このような状況を少しでもましなものにするにはどのような戦略が求められるのでしょうか。

西田弁護士には、弁護士業務のあり方に関わる様々な問題の所在を教えて頂き、私自身それらの問題をどのように整理するか、考えをめぐらせているところです。西田先生、今後ともよろしくお願い致します。

[福井康太]