雑感:ベルリンでの国際学術大会

2007年7月25日(水)から28日(土)まで、ドイツ・ベルリン市のフンボルト大学にて、法社会学会国際学術大会(International Conference "Law and Society in the 21st Century": Transformation, Resistance and the Future)が開催された。世界各国から約3000人が参加し、620ものセッションが開かれた。日本からも30人以上が参加し、それぞれ興味深い報告を行っており、日本の法社会学者はそれなりの存在感を示していた。私も、法社会学者の一人として本大会に参加させていただいた。

同時並行で40ものセッションが開かれていたため、私は、本学術大会について極めて限られた印象しか有していない。私は主として、@市民の紛争行動の比較実証研究に関するセッション、A企業の内部統制やCSRに関するセッション、そして、BN.ルーマンに関するセッションなどに参加した。@Bについてはややマニアックであるため、ここではAの印象について敷衍したいと思う。というのも、Aのセッションにおいて、法的思考と政策科学的思考の融合に強い印象を受けたからである。

本大会では、コーポレート・ガバナンス、企業の内部統制、CSRに関するセッションは多数開かれていた。そして、私の参加した限りでは、概ね質の高い議論が行われていたという印象である。そこでは、例えば、様々な指標を手がかりとした企業内部統制に関する実証研究、法と経済学の手法を用いた内部統制の行動分析、機能主義的アプローチによる分析、そして法的規制に関する介入主義的アプローチが、それぞれの有効性と限界に関するすり合わせを行い、実効的な企業統制の可能性が模索されていた。そこでの議論は、一方で行動科学的でありながら、十分にリーガリスティックであると言う意味で、非常に印象的であった。というのも、日本でこの手の議論が行われる場合には、行動科学的分析とリーガリスティックな分析との間で議論がかみ合わず、まとまりのない議論に終始する場合がほとんどだからである。

コーポレート・ガバナンス、企業の内部統制、CSRについては、企業の内部統制や社会的責任を担保するメカニズムに関する実証研究が相当に積み上げられている。そのような実証研究を土台として、この分野では、行動科学的組織分析と法学研究との融合がかなり進んでおり、実効的な企業組織構成に関する議論も充実していきている。そこでは従来のリーガリスティックな議論が根底から覆され、政策科学的思考法を用いることができなければもはや議論についていくことができないという状況になりつつある。そして、法社会学者に限られない多くの法学研究者(プロパー法社会学者がいるのは日本ぐらいである)たちが、そのような思考法を普通に使いこなしているのである。果たして、日本の法学研究者のどの程度がこのような変化について行けるだろうか。少し心配になった次第である。

[ 福井康太 ]