裁判員制度の開始を控えて

これまで裁判は、法曹がいわば独占してきたが、裁判員制度の導入により、選挙権を有する国民から選ばれた裁判員が、裁判官とともに評議・評決する形式で、裁判に加わることになる。

裁判員制度は広く国民の参加を求めるものであり、制度がうまくスタートするには、国民に対する制度の周知と国民の理解が欠かせない。そこで最高裁判所、法務省をはじめとして、法曹関係者による広報活動が、各地で盛んに行われている。また裁判員になる者のうち、少なからずの者が民間企業で働く労働者であろうことを考えると、国民だけでなく、企業の協力・理解も求められる。というのも裁判員は原則として辞退できないため、裁判員として参加する期間、労働者が欠勤を余儀なくされることになるからである。

もちろん法は、労働者が公の職務に従事するために必要な時間につき欠勤することを保障しているし(労働基準法7条)、また労働者が裁判員の職務を行うために休暇を取得したこと等を理由に、当該労働者に対して解雇その他の不利益な取扱いをすることを禁止している(裁判員法71条)。したがって、法により最低限必要な保障は担保されているのであるが、実際に労働者が気兼ねなく安心して欠勤し、裁判員としての職務を全うすることができるために、一部の企業では裁判員休暇制度の導入をすでに決定している。

裁判員制度が開始する前から、このような決定がなされたことは、企業の社会的責任のあらわれとみることができるが、同時に、企業の協力・理解を引き出した、法曹関係者のご努力もうかがい知れる。裁判員制度の導入にあたり、法曹関係者がよりわかりやすい言葉で、また人々とより近しく接しておられるように思われるが、この傾向は、裁判員制度が開始した後、より顕著となるであろう。検察官も弁護士(弁護人)も、そしてともに評議・評決を行う裁判官も、法律の知識をとくに有さない裁判員と精神的障壁・心理的段差なく会話することが求められるからである。法曹関係者、そして将来の法曹を目指す人々には、このような意味での新たなスキルが必要になってくるかもしれない。

[ 水島郁子 ]