法律事務所の大規模化に寄せて
2007年7月1日に、西村ときわ法律事務所とあさひ法律事務所国際部門が統合して、300名規模の日本最大の法律事務所「西村あさひ法律事務所」が誕生した。近年、わが国でも法律事務所の大規模化が急速に進んできている。とりわけ渉外実務を主要業務とする法律事務所の大規模化の傾向が著しい。近いうちにさらに大規模な法律事務所が誕生するという噂も聞こえてくる。
法律事務所の大規模化は、アメリカなどの大規模ローファームの市場参入に対抗するために急速に進められているものである。ユーザーにとっても、そこに行けばあらゆる法的サービスを受けることができる「ワンストップサービス」を受けることができるというメリットがある。実際、西村あさひ法律事務所は、ビジネス法分野を中心とする複雑かつ高度な専門性を要する法律業務の各分野で、最高レベルのリーガルサービスを提供している。
しかし、法律事務所の大規模化には問題もある。まず、大規模法律事務所は、効率性の観点から、専ら大企業相手の法的業務ばかりを引き受けることになる。だが、この結果として、そのような法的サービスの恩恵に与らない中小零細企業と大企業との間で、法的サービスの格差が広がることが予想される。また、大規模法律事務所が大都市圏に集中している点も問題である。地方都市では、大規模法律事務所のサービスを受けるにはコストがかさむことになり、競争力の点でより不利な状況に置かれることになる。さらに、最も大きな問題は、法律事務所の二極分化である。法律事務所の大規模化に伴い、わが国の法律事務所は、一部の一流の大規模事務所と零細の法律事務所へと、二極化しつつある。すなわち、大規模かつ優良な仕事を一手に引き受ける大規模法律事務所と、専ら零細企業や個人のニーズに応えていく個人事務所を中心とする小規模法律事務所の二つのカテゴリーに、である。そして、後者のカテゴリーは、弁護士数の増加に伴い、少ないパイを奪い合い、不本意な仕事にも手を出さなければならない過当競争の状況に置かれることになる。これは、ユーザーのニーズに応じた弁護士の役割分化と見ることもできるが、二極の位置づけが固定化されることになれば、小規模法律事務所の社会的地位の低下を招き、弁護士に対する社会的評価を損なうことにもなりかねない。問題が深刻化しないうちに、何らかの対策がなされる必要があろう。
いずれにしろ、法律事務所の大規模化の傾向は、今後しばらくは続いていくと思われる。そして、その中で弁護士像も大きく変化することになるに違いない。私どもの研究グループはそのような動きを少しでも早く察知し、時代にあった法曹養成に繋げていきたいと考えている。
[ 福井康太 ]